ニュースの概要
職人の技や仕事への思いを広く発信する「建設職人甲子園」と、ロープを使った高所作業の普及や安全確保に取り組む日本ロープ高所作業協会が、「特別コラボ交流会」を開いた。業界メディアのクラフトバンク総研が伝えたもので、職人の技能を見せる取り組みと、ロープアクセスと呼ばれる専門技術の担い手が顔を合わせた点が特徴である。両者はこれまで別々の場で活動してきたが、人手不足や高齢化が進む建設分野で、技能の価値を社会に伝えるという目的は重なる。本稿では交流会の細部ではなく、この組み合わせが持つ意味と、現場や企業経営にもたらす可能性を考える。
引用元: 「特別コラボ交流会」を開催 建設職人甲子園・日本ロープ高所作業協会(クラフトバンク総研)
分析・見解
競う場と安全の専門団体が手を組んだ意味
建設職人甲子園は、職人の技や仕事への思いを外へ見せる場として知られる。一方、日本ロープ高所作業協会は、ロープで体を支えながら高所や狭い場所で働く技術の普及と、安全づくりに取り組む団体である。前者は「見せる力」、後者は「守る技術」に強みがある。この二つが交流することには、思った以上に筋の良い補完関係がある。
建設の技能は、完成した建物の陰に隠れやすい。橋の裏側、ダムの壁面、煙突、風車の羽根などで働く人の姿は、ほとんど一般の目に触れない。だがロープ一本で宙に立つ姿は、言葉を足さなくても伝わる。若い世代の関心を引く力が、はっきりある。
ロープアクセスが広がった背景にある足場の費用
ロープアクセス(=ロープで体を支えて行う作業方法)は、洞窟探検や海上施設の保守から発展した技術である。足場やゴンドラを組むと、費用も日数もかさむ。ロープなら準備が短く済み、点検や小規模な補修では費用を抑えやすい。国内でも、老朽化した橋やトンネル、高層ビルの外壁調査などで使われる場面が増えている。
ただし、道具が簡単に見えるほど、自己流の作業が危険を生む。体を支えるロープと安全用のロープを分ける考え方や、事故時の救助手順を身につけることが前提になる。協会の役割は、この前提を業界に根づかせることにある。
人手不足の時代に問われる職業の見え方
建設業の就業者数は、1997年ごろの約685万人から、近年は480万人台まで減った。55歳以上が3割を超え、29歳以下は1割強にとどまる。賃金や休日の改善はもちろん必要だが、それだけでは足りない。「誇れる」「かっこいい」と感じる体験が、進路選びでは意外に強く働く。
甲子園という名前は、努力と仲間の物語を連想させる。そこにロープ作業の専門性が加われば、職人の技を新しい角度で見せる素材になる。技能五輪全国大会のように、競技を通じて技を伝える仕組みは以前からある。ただ、競技は参加者が限られ、観客の層も狭くなりがちだ。専門団体との交流のように、見る側が学べる要素を足す工夫が生きてくる。
交流で終わらせず安全基準と教育につなげられるか
課題は、イベントの熱を現場の仕組みに変えられるかである。見栄えのよい技の披露だけが先行すると、危険な作業を美化しかねない。建設業の死亡災害では、墜落・転落が毎年最も多い原因の一つだ。高所作業を見せる側には、相応の責任がある。
だから交流の場では、装備の点検や救助の考え方まで、あわせて見せたい。大会の評価に安全手順が加わる、協会の講習を体験できる、といった形に育てば、話題づくりを超えて業界全体の底上げになる。
ビジネスへの影響
採用広報にロープ技術の見せ場を取り入れる
元請けや専門工事会社は、採用ページや現場見学で「何を作る仕事か」だけでなく、「どんな技術で守っているか」を見せるとよい。例えば、外壁調査や橋の点検でロープ作業を行う様子を短い動画で紹介し、資格取得の支援制度を添える。若手が会社を選ぶ際に重視するのは、仕事の中身が想像できるかどうかだ。入社後に身につく技術の道筋が見えれば、応募の動機になる。自社にロープ作業がなくても、協力会社との連携事例として紹介できる。
広報担当者と現場責任者が一緒に素材を選ぶと、見映えだけに偏らず、安全の説明も入れやすい。
外部に発注する前に確認したい三つの点
ロープ作業を外部に頼む場合、確認したい点は三つある。第一に、作業者の資格と訓練の記録。第二に、救助計画があるか。第三に、足場やゴンドラと比べた理由を作業計画で説明できるか。費用の安さだけで選ぶと、事故が起きたときの損失が大きい。国際的な認証であるIRATAの有無も、判断材料のひとつになる。
確認は契約前に書面で行い、現場ごとに更新する。口頭の了解だけでは、担当者が替わったときに基準が揺れる。
小さく試して数字で比べる進め方
まず、地域の技能イベントや協会の説明会に担当者を一人送り込む。次に、自社の点検や補修の中で、ロープ作業が向く場面を洗い出す。足場代が高い箇所や、立ち入りにくい箇所が候補になる。その上で、試験的に一件だけ発注し、工期、費用、安全記録を従来の方法と比べる。
足場の設置と撤去にかかる日数や、近隣への影響も数字にしておくと、発注者への説明が通りやすい。小さな成功例を積むことが、現場の不安を減らす近道である。