ニュースの概要
米ジョージア州アトランタの道路脇で、建設作業員が下水用のアクセス空間に約20フィート(約6メートル)落下した。空間は狭く深く、通常の搬出が難しい状況だった。アトランタ消防救助隊は、現場に三脚を立ててロープ救助システムを構成し、給気装置を携えた隊員が地下へ進入した。作業員は意識があり、ロープで垂直に引き上げられて地上へ戻った。報じられたのは一件の救助にすぎないが、アンカー(=支点)、三脚、ロープという産業用ロープアクセスと同じ道具立てが、閉鎖空間の救助でも使われた点が目を引く。本稿ではこの事例を、現場で働く技術者の視点から読み解く。
引用元: アトランタで20フィート落下した作業員を消防隊がロープシステムで救出(Ground News / Atlanta Fire Rescue)
分析・見解
狭い縦穴では、入るより出す方が難しい
今回の現場は、道路脇にある下水のアクセス空間だった。入口は小さく、深さは約20フィート(約6メートル)ある。落ちた人が自力で出ることはまず無理で、担架を水平に運ぶ余地もない。救助は真上に引き上げる以外に選べなかった。
閉鎖空間の事故で厄介なのは、助けに入る側の危険が大きいことだ。狭い空間では隊員が横に並べず、手順もやり直しにくい。救助者が二次被害に遭う例は、各国で繰り返し報告されてきた。消防隊が給気装置を携えて進入したのは、中の空気が安全か分からない前提で動いた結果と読める。
三脚とロープの組み合わせは、ロープアクセスと同じ発想
三脚は、マンホールのような入口の真上に支点を作る道具だ。梁も構造物もない場所で、人を垂直に上げ下ろしできる。三脚の脚を開く場所さえあれば、現場の構造に頼らず支点を確保できる。外壁や風車のブレードで働く技術者が使うアンカー(=体重を預ける固定点)と、役割は同じである。
違いは、助ける相手が自力で動けない前提で組む点だ。引き上げの力を増やす滑車の仕組みや、途中で止めても逆戻りしない器具を、救助用のロープ装備には必ず入れる。つまり救助とは、作業用の道具を逆向きに使いこなす技術である。
地面に開いた穴も、墜落防止計画の対象に入れる
20フィートは約6メートル、建物の2階を少し超える高さだ。足場や屋根の上なら高所作業として管理されるのに、地面の穴は見落とされやすい。地面の穴は上から見えにくく、落ちる想定をしていない現場も多い。蓋を開けた瞬間から、そこは高所作業の現場になる。
米国のOSHA(労働安全衛生局)の規則は、許可が要る閉鎖空間では救助の段取りを事前に決めるよう求めている。ロープアクセスの現場でも、作業前に落ちうる場所を洗い出し、救助手順を書面に残すのが通例だ。この習慣を地面の穴にも持ち込めば、同種の事故は確実に減らせる。
消防隊の到着を待つだけでは、間に合わない場面がある
消防隊が着くまでには数分から十数分かかる。酸素が足りない空間なら、その間に意識を失うおそれがある。今回の作業員は意識を保っていたが、これは運に助けられた面も大きい。
海上の石油・ガス設備では、作業班が自分たちで救助まで担うのがすでに標準だ。地下や建設の現場でも、民間事業者が救助要員と機材を自前で持つ流れが強まると見る。ただし、機材を買えば済む話ではない。年に数回でも実際に人を引き上げる訓練をしなければ、本番では動けない。ロープ技術を持つ会社には、新しい仕事の入口にもなる。
ビジネスへの影響
閉鎖空間の仕事を受ける前に確認したい三つのこと
第一に、救助を誰が担うかを契約前に決める。自社で担うのか、近隣の消防や専門会社に依頼するのか。依頼するなら到着までの時間を実際に確かめておく。契約書や作業計画書に、救助の担当者と連絡先まで書いておくと、現場で迷わない。第二に、入る前の空気測定と、換気や給気の手段を手順に書き込む。第三に、落ちた人を上へ出す方法を、現場の入口の形に合わせて選んでおく。三脚が使えるのか、別の支点が必要なのかは、下見の段階で分かる。小さな現場ほど、この確認が抜けやすい。
ロープ技術者の資格と訓練が、新しい受注の武器になる
IRATAなどの資格を持つ技術者は、すでに支点の作り方、荷重のかけ方、ロープでの救助を学んでいる。この力は、点検や清掃だけでなく、閉鎖空間の作業支援や待機救助にも使える。海外では、風力発電や洋上設備の分野で、この種の救助要員を現場に常駐させる契約がすでに一般的だ。元請けの建設会社から見れば、作業班とは別に救助の専門家を呼べることは、安全管理上の安心材料になる。見積もりに救助待機の項目を独立して載せると、価格競争から一歩離れやすい。
訓練と機材点検は、年間計画に組み込んで続ける
救助訓練は、一度やれば終わりではない。ロープや滑車、給気装置の点検記録を残し、使用期限が近いものから入れ替える。訓練は半年に一度でも、実際の入口に近い高さと狭さで行う。搬出に何分かかったかまで記録すれば、次回の改善点が数字で見える。その記録は、元請けや発注者に対する説明資料にもなる。費用は決して小さくないが、一件の事故で失う信用と比べれば、はるかに安い投資である。